暴落で動けないのは、根性が足りないからではない

高配当株投資をしていると、数年に一度は大きな下落局面に遭遇します。直近でも、コロナショック、2022年の金利上昇局面、円キャリー巻き戻しの瞬間など、保有銘柄が一斉に2割3割下がる場面は何度かありました。

そういう局面で「暴落こそ仕込み時」と言える人と、画面を閉じて何もできなくなる人の差は、気合や根性ではありません。私自身、最初の数回は完全に後者でした。下がるたびに「もっと下がるのでは」と思って買い増せず、結局戻ってから後悔して買って、平均取得単価を上げる、というのを何度か繰り返しています。

その失敗を経て、いまの私は「暴落歓迎」を口で言うのではなく、そう動ける状態を平時に作っておくという考え方に切り替えました。本記事では、私が会社員投資家として実運用している、暴落時に動くための3層のマインドセットと、そこに辿り着くまでに気づいた誤解、暴落時に絶対やらないと決めた行動を整理します。投資助言ではなく「私はこういう設計で運用している」という体験記なので、そのまま真似ることを推奨するものではありません。


暴落で買い増せる人は、平時に何をしているか

結論から書くと、暴落で動ける人は、判断を暴落の瞬間にしていません。判断は平時に終わっていて、暴落の瞬間にやっているのは「あらかじめ決めたルールの実行」だけです。

これは私にとって大きな発見でした。投資の本で語られる「暴落歓迎マインド」は、長く読み続けると「強気でいよう」「狼狽売りするな」という精神論に寄っていきがちです。私はそれを実行できませんでした。理由は単純で、画面の中で資産が日々2桁パーセント減っていく状況で、精神論だけで動ける人はそう多くないからです。

動ける人は、別のことをしています。具体的には次の3層を平時に作り込んでいます。

  1. インカムの仕組みを腹落ちさせる(買い値の利回りが20年のリターンを決めると本気で理解する)
  2. 銘柄ごとの目安利回りを決めておく(この値段なら買う、というラインを平時に書き出しておく)
  3. 暴落時の行動ルールを書き出しておく(目安に達した銘柄だけ買う、達していなければ何もしない)

これだけです。逆に言うと、この3層がないまま暴落を迎えると、感情と相場の動きに翻弄されて当然です。


層1:買い値の利回りが、10年20年のインカムを決める

最初の層は、高配当株という商品の性質を腹落ちさせることです。これが曖昧だと、後の層がすべて崩れます。

高配当株は、買った瞬間の利回りが、その後の保有期間中のインカム水準を決めます。仮に同じ銘柄を利回り3%で買った場合と利回り4%で買った場合では、20年保有して受け取る配当総額は、増配率が同じだったとしても1.3倍以上の差になります。買い値が低ければ低いほど、同じ配当金額に対する利回りは高くなるので、長期で見ると差が広がっていきます。

この性質があるからこそ、高配当株は「いつ買うか」が成績の大半を決めます。インデックス投資や成長株投資では「とにかく早く市場に居続けること」が重要視されますが、高配当株では「優良銘柄が利回り4%や5%を超えてくる場面を待てるか」が長期リターンを決めます。

そして、その場面はいつ来るのか。答えは決まっています。市場全体が悲観に傾く局面、つまり暴落や急落のときだけです。優良銘柄が平時に4%や5%の利回りで放置されることはほとんどなく、わざわざ買い場を作ってくれるのは下落局面だけです。

ここまで腹落ちすると、暴落の見え方が変わります。下落は「保有資産が減る怖い時間」ではなく、「買い場が訪れている貴重な時間」になります。これは精神論ではなく、利回りという数字が機械的に動いているだけの話です。

ついでに言えば、ドルコスト平均法を高配当株でルーティン化する運用が私の方針に合わないのも、この層の理解から来ています。毎月決まった額を機械的に買い続けると、利回りが低い局面(つまり株価が高い局面)でも買い続けることになります。これはインデックスや成長株では合理的でも、「買い値の利回り」が長期リターンを決める高配当株では、合理性が薄い手法だと私は考えています。

毎月のルーティンを作るなら、「決まった額を買う」ではなく「決まった日に買いたいリストの利回りをチェックする」運用に変えるのが、私の選んだやり方です。


層2:銘柄ごとの「目安利回り」を平時に書き出す

層1で「いつ買うか」が大事だと分かっても、暴落の最中にゼロから「いま買っていいのか」を判断するのは無理です。下落のスピードと精神的負荷で、平時の判断力が出せる人はほとんどいません。

なので、判断は平時に終わらせておきます。具体的には、保有候補リストの銘柄ごとに「この利回りに達したら新規買い」のラインを書き出しておきます。

私のリストの一部を例で挙げると、次のような感じです(実保有のうち代表的なものを抜粋)。

  • 三菱HCキャピタル(8593):目安利回り 4.0%以上
  • KDDI(9433):目安利回り 3.8%以上
  • NTT(9432):目安利回り 3.8%以上
  • 東京海上ホールディングス(8766):目安利回り 3.5%以上
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306):目安利回り 3.5%以上

平時の利回りはそれぞれ2%台後半から3%台前半に収まっているので、これらの目安に達するには、株価が1割から2割下がる場面が必要になります。逆に言うと、そうした下落局面でしか新規買いはしません。

このラインを決めるとき、私は次の3点を見ています。

  • 過去5年から10年の利回りレンジ:その銘柄が過去にどこまで利回りが上がった局面があるかを確認し、現実的に到達する水準に設定する
  • 業種別の標準値:銀行・通信・商社など、業種ごとに利回りの相場感がある。それを大きく外れない範囲に置く
  • 連続増配の継続性:増配が続く銘柄なら、いま設定した目安利回りは、来年同じ株価でもDPS上昇の分だけ自動的に達成しやすくなる

目安を書いてしまえば、あとは待つだけです。日々の値動きを追わなくても、月1回リストをチェックすればだいたい間に合います。私は dividend-portfolio という Streamlit ツールで保有候補の利回りを毎日自動更新するようにしていて、目安に達した銘柄が出たときだけアラート的に視認するようにしています。

この「書き出して待つ」が、暴落時に動ける本体です。


層3:暴落時の行動ルールを、感情の入る前に書く

層2まで作っても、暴落時に手が止まることがあります。理由は「目安に達したけれど、もっと下がるのでは」と考えてしまうからです。

これに対する私の答えは、行動ルールを平時に書いてしまうことです。

私のルールは3つだけです。

  • 目安利回りに達した銘柄から、リストの順に1単元ずつ買う
  • 同じ銘柄を一度に複数単元買わない(1日に同じ銘柄は1単元まで)
  • 目安に達していない銘柄は、株価がどれだけ下がっても買わない

このルールには「もっと下がるかも」「いま買い切ったほうがいいかも」という最適化の余地がありません。それが狙いです。最適化を試みた瞬間に、暴落の最中に判断することになり、結局動けなくなります。

「1日1銘柄1単元」というルールには、副作用として「下落が長引くほど、買い増し回数が増えてポジションが分散される」という効果があります。暴落の底を当てる必要がないので、ストレスが大幅に減ります。底で買えなくても、底に近い水準で複数回に分けて買えていれば、結果としてはほぼ同じです。

そして「目安に達していない銘柄は買わない」というルールが、いちばん大事です。下落局面では「何でも安く見える」錯覚が起こります。日常的に追っていない銘柄まで「これは買いではないか」と思えてくるのですが、それは目安利回りの設計を経ていない銘柄なので、買い増し対象には含めないと決めています。買うのは、平時に追跡してきた範囲の中だけ。これが層1から層3までを一貫させるための歯止めになります。


暴落時に動けない人の3つの誤解

暴落時に動けない人がよく持っている誤解を、私自身が抱えていた経験を含めて整理します。私もこれらの誤解を解くのに何年かかかりました。

誤解:含み損は「損」である

最大の誤解はこれです。含み損は損ではありません。売却しないかぎり、配当は出続けます。

たとえば、私が保有している銘柄の中には、買値から2割下がっている時期に、減配せずに増配を続けた銘柄が複数あります。コロナショック直後の局面でも、保有していた通信・商社・銀行セクターの主力は、配当を維持するか増配する形で乗り切っています。株価がいくら動いても、企業から振り込まれる配当金額には影響しません。

含み損を「損」と認識してしまうと、下落局面でナンピンせず、戻ってきた局面で売ってしまうという最悪のパターンに入ります。私もここで何度か失敗しました。「売らないかぎり損ではない」を体に染み込ませるのが、層1の延長としての練習だと考えています。

誤解:暴落は「市場の終わり」のサインである

ニュースを見ていると、暴落のたびに「過去最大」「リーマン以来」という言葉が並びます。これを真に受けると、市場全体が終わりに近づいているように感じます。

しかし、日本株の場合、過去の大きな下落局面のあとで、配当を出し続けた優良企業の配当総額が「下落をきっかけに底打ちした」事例は、私が観測した範囲ではありません。リーマンショックでも、コロナショックでも、優良連続増配銘柄の配当は概ね維持または継続増配されました。

下がるのは株価であって、企業のキャッシュフローではない、というのが基本構造です。もちろん全部の企業がそうではなく、構造的に減配する企業もあります。だからこそ層2の段階で、財務健全性・配当性向・連続増配年数といった指標で選別された銘柄だけをリストに乗せておきます。選別が終わっていれば、暴落は「市場の終わり」ではなく「リストの銘柄が買える時期」になります。

誤解:ドルコスト平均法なら平準化される

最後の誤解は、ドルコスト平均法を高配当株にそのまま適用してしまうケースです。「毎月決まった額を機械的に買えば、暴落のときも自動で買い増しになる」という発想です。

機械的に買い続けるという点では正しいのですが、高配当株の場合、利回りが低い局面でも買い続けることが副作用になります。たとえば利回り2.5%の局面で買った株は、長期保有しても2.5%相当のインカムしか出しません。20年保有しても、その株からは年2.5%しか入ってこない。これは、優良銘柄を利回り4%まで待って買った場合と比べると、20年で受け取る配当総額が大きく違ってきます。

私のスタンスは、ルーティン化するなら買い金額ではなくチェック頻度をルーティンにする、です。毎月同じ日に「買いたいリストの利回り」をチェックして、目安に達した銘柄があれば買う、達していなければ何もしない。これなら、暴落時に集中して買えて、平時には現金として温存できます。


私が暴落時に絶対やらない3つの行動

ルールの裏返しとして、絶対やらないと決めている行動も書き出しています。これも平時に明文化しておくことで、暴落時の暴走を防いでいます。

  • 保有全銘柄を均等に買い増す:全銘柄が同時に目安利回りに達することはまずないので、均等買いは目安利回り運用と矛盾します
  • 目安利回りに達していない銘柄を「下がったから」で買う:層3の歯止めをここで外すと、結局なんでも買う運用になります
  • 配当性向が伸びている銘柄をナンピン:株価が下がっているのに配当性向が上がっている銘柄は、減配リスクが高まっている可能性があるため、買い増し対象から外します(このチェック観点は減配サインを見極める記事で詳しく書きました)

3つ目は特に注意が必要です。下落局面では業績の悪化と株価の下落が同時に起きていることが多く、配当性向が急上昇している銘柄は減配の前兆が出ていることがあります。「下がったから安い」ではなく、「下がっていて、かつ配当性向に異常がない」を満たす銘柄だけが買い増し対象になります。


まとめ — 暴落を待っていられるか、が20年後を決める

ここまで書いてきた3層の設計は、振り返ってみると「暴落時に判断しないための準備」に尽きます。

層1で高配当株の性質を腹落ちさせ、層2で銘柄ごとの目安利回りを書き出し、層3で行動ルールを決める。これを平時に終わらせておけば、暴落時にやることは「リストを見て、目安に達した銘柄を順に買う」だけです。「もっと下がるか」「いま動くタイミングか」は考えません。

この準備の有無が、20年後の配当総額を決めると私は考えています。優良銘柄が利回り4%や5%で買える場面は、20年の中で数えるほどしか来ません。その数回をどう動けるかが、長期インカムの差を作ります。

会社員投資家としての立場で言えば、本業をやりながら相場に張り付くことはできません。だからこそ、平時に書き出した目安利回りと行動ルールが、暴落時の私の代わりに動いてくれる仕組みになります。次の下落局面では、また同じことを試そうと思っています。

特定の銘柄や売買を推奨するものではありませんが、もし読者の方が「暴落で動けない」自分に気づいたなら、それは強気が足りないのではなく、設計が足りていないだけかもしれません。買い増ししたい銘柄の名前と、その目安利回りを書き出すところから始めれば、次の暴落の見え方は変わってくると思います。


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